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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)1020号 判決 1953年12月25日

東京都台東区上野広小路二五番地

上告人

小林らく

右訴訟代理人弁護士

樫村広史

同都同区北稲荷町六二番地

被上告人

下谷税務署長

永井岩

右当事者間の所得税不当課税更正決定取消変更請求事件について、東京高等裁判所が昭和二七年九月一九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

(参考)

○昭和二七年(オ)第一〇二〇号

上告人 小林らく

被上告人 下谷税務署長

上告代理人弁護士樫村広史の上告理由

一、原判決は当時の所得税法第九条一項四号と九号とは本質を異にし併合し得ざるものとし又経験則に違反し且理由に齟齬がある。

原判決理由中原審附加事項一中「……原審及当審証人照沼利雄、福川義憲の各証言を綜合すれば、右帳簿自体正式なものでなく、記帳漏その他不備の個所が認められたので、審査請求に基き控訴人宅に調査に赴いた、国税局係官照沼利雄は控訴人の売上帳、仕入帳、その他の関係書類及び売上や資産の増減、在庫の関係を勘案した上、税務署長がした決定が正当であると判断したものであり、右調査に当つて控訴人の依頼により、これに立会つた税務代理士福川義憲も税務署長の査定は已を得ないものと了承し照沼係官とともに控訴人に説明し前記の取下書が作成されたことを認めることができ……」とあるが、

先づ帳簿自体正式でないとの点に付て述ぶれば我国において最初の帳簿に関する法令通達、昭和二十四年十二月二十八日付青色申告の前提となる帳簿制度についてなる国税庁通達中、

八、令中の帳簿とは綴合帳簿のみならず、ルーズリーフ式、又はカード式のものもバインダー又は綴紐等で結束する等一定の秩序の下に管理されているものは帳簿である。

九、従来各局において特定の帳簿を認定し、あるいは推奨した向もあるようであるが種々の弊害も考えられるからこの際認定推奨は一切これを行わないこととする云々」。

とあることから見て、ましてや、それより以前に殆んど全部が作られた甲第一、二、三号証が広義の正式帳簿であることに間違はないと信ずる。

右通達を法令とせば之又法令の違反である。

次に「記帳漏その他不備の個所が認められた」との点に付て、

之に付ては原審の控訴人の第二回準備書面中原審証人調書の信憑力に付て一、照沼利雄調書に付て(1)(2)(3)(5)二、福川義憲証人調書について(1)(8)を援用する、右照沼は予断を懐き、押圧の意図を以つて全部を見ず、漏れがあると言い得る甲第一号証のみを採りて批難圧迫したもので、甲第二第三号証の全部を見ればその様な事はない。尚照沼が上告人に反感を持つておつたと推される事は原審同人の証人調書(二百九十五頁)に「表面は飴屋をやつている事になつていましたが云々」とあるが上告人は二十四年八月廃業する迄遊興飲食税を納め「甲第七号証ノ十八乃至二十七、甲第八号証ノ一乃至六援用し正式にやつておつたものである事で判る。次に原審は「照沼は控訴人の売上帳、仕入帳その他関係書類及売上や資産の増減、在庫の関係を勘案した」事を採用しておるが、

照沼は第一審調書中「被告代理人の問に対し一の中に、「売上帳仕入帳と領収書を全部はつきあはせませんでした」とある。

又右各書類や売上、資産、在庫の勘案は単に調査の方式を述べた迄で、上告人とても訴状添付損益計算書や福川作成の甲第四号証審査請求書添付の計算書も皆然りである。

要するに右方式により照沼の出した各数字が何であるか、仮に照沼が忘却したとしても、然らば同人が正当と認めた税務署の計算の基礎となつた数字を調べ、当事者双方の意見を述べしめた上でなければ原審としての確信は得られない筈である。何人も異議のない方式を被上告人の利益にのみ採る事は理由とならないと信ずる。

次に照沼の計算の方法であるが原審同人の証人調書(二九六頁)に「……源泉徴収の方も全くしておりませんでした。以上を総合して之を計算しました……」とあるが当時の所得税法第九条一項四号の使用人の給料の源泉徴収と同法同項九号の雇主たる上告人の営業所得とは、納税主体、勤労控除の有無、個別的税率の適用等税質を異にし全然総合し得るものでない。

然るに照沼は之を行い又原審は之を認容しての裁判であると考えられる。

次に「右調査に当つて控訴人の依賴を受けこれに立会つた税務代理士福川義憲も税務署長の査定は已を得ないものと了承し云々」の点について当時福川が上告人に対し謀反しておつた事に付て原審の控訴人の第二回準備書面中原審証人調書の信憑力に付て二福川義憲証人調書について(2)を援用する。

二十四年頃は源泉徴収は一般人には不知の事で、之は原審における福川証人調書(三〇一頁)「……私としては当時個人に対する源泉徴収はしないものと思つておりましたので全然考えておりませんでした」とある如く同人は上告人に対し何等指導をしなかつた。

第一審福川証人調書を見れば自分の責任でおちた源泉徴収に気を取られ、税の本質上綜合の出来ない、源泉徴収と上告人の営業所得の綜合が出来ると考えたのが誤の第一歩である。

又計算上源泉徴収額は金二万五千三百余円に上り本更正による税金増金十五万九百十円となり得ない、その斯くあり得ない理由は、原審の控訴人の第二回準備書面中原審証人調書の信憑力に付て二、福川義憲証人調書について(3)乃至(5)を援用する。右の如く福川は上告人に対する謀反と、税質及計理の誤りの上で照沼に同調したものである事が極めて明である。

右の理由により原判決は法令を誤解し、自由心証が健全でなく従つて理由が全くくいちがつておると信ずる。

二、前項の理由を以つて原判決理由援用の第一審判決理由並に原審判決理由中附加事項二も亦法令に違反し且理由に齟齬あるものと信ずる尚右追加事項二中上告人の長男小林一郎は当時二十歳で、(原審証人福川義憲調書、五援用)本件の如きを判断する能力のある者でない。 以上

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